基準
階層1:なぜ面白いと感じるか
・好奇心の充足
・情報処理の達成感
・カタルシス
・心が動かされるか
・納得、説得力(がないと興を削がれる)
階層2:構造 ←これを主な基準としてランキング化
世界観/ルール体系の一貫性/善悪設計/問いの配置/欲求と障害の設計/因果の連鎖
階層3:技術
・わかりやすさ
・情報の量と開示のタイミング
・Show, don't tell
・人物の解像度
・パラレル構成による対比
・感動要素の質(懺悔、成長、犠牲、信念、絆、総括すると愛)
・サブコンテクストとの関連性
・モチーフ
・リフレイン
・推進力の維持
・ミスリード
(補足)全部ジャンプ系列なわけ
ジャンプ系列ってマジで"すぐにわかりやすい"んだよね。
単行本でいう1-3巻に、ありえんほどクリフハンガーが用意されている。
・スピード感
呪術は2巻でもう主人公死ぬし、暗殺教室なんて1話から暗殺してるからね。
・セリフや世界観の強さ
「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」とか天才すぎるでしょ。
・装置としてのキャラクター
落ちこぼれの化け狐、トスに飢えてた初心者、みたいな誇張された設定・描写は、振れ幅(後の落差)を盛っていたり。
こういう"大衆に読ませる"ためのノウハウが集英社にはあるんだと思う。
素晴らしい漫画は世の中にたくさんあるけど、今回は"ストーリーが面白い"という点に絞っているから、どうしても集英社(かつ少年向け)が強い。
5位 ダイヤモンドの功罪
世界観
「強い方が悪者にされる」と気づいてしまった、思考力の高い子供がリトルリーグで野球をする話。ワンナウツ、ダイA、おお振りのような名作がすでに書き尽くされている野球漫画というジャンルの中で、この切り口(いわゆる青峰や轟大愚側が抱える不条理に焦点が当たる)は新鮮でそれだけで高評価。ゆえに内容は生々しく、ミステリーに近い読み味すら感じさせ、より面白さが引き立つ。
ルール体系の一貫性
これは野球漫画だから特にない。
善悪設計
綾瀬川が言うなればオムファタールとして機能している。
・「できんの、オレには!」
・「真夜が馬鹿に見える」
・ヤスの家庭の崩壊
等々、綾瀬川自身は決して悪意を持っているわけではないのに、無自覚に破滅(=悪)を招いていく。「打たれたらオレ戦犯?」「息子の側には置いておけない」「兄貴の代には綾瀬川いねぇだろ」「投げてくれなくなったらどうすんだよ」「反省会、綾いる意味なくね」――こういった台詞だけを見れば、綾瀬川は周囲にとって悪でしかないが、読者にだけ明かされる情報の非対称性(「天狗になっている」↔︎「本当にU12来たくなかったし、エースの座も望んでいない」等)があるため、綾瀬川を単純な悪として断罪できない。
さらに、少年スポーツ漫画にありがちな「対戦校側の葛藤・背景を描くサブプロット」を、この作品は徹底して綾瀬川を軸に据えている(奈津緒の事情も大和の過去も綾に必要だから)。
だからこそ読者は本当に「綾瀬川の人生」を見ている感覚になり、綾瀬川という一人の人間を巡って、オジサンから同級生まで、全員が狂っていく様子が見れるのが醍醐味。
問いの配置
ダイヤモンドの功罪が上手い点は、4話の時点で「このチームで良かった」というモノローグを挟んでいるところだと思う。それによって、綾瀬川自身がクリフハンガーの役割を果たしている。「どの高校に進むの?」「進学で揉めたりするのかな?」「高校編でどうやって地獄を打開できるの?」のように、綾瀬川の未来(平穏の着地点)への問いが読者の好奇心を刺激する装置となり、その分"今"の地獄がより一層輝く。
野球の試合展開そのものとしても、気になる引きをきちんと作ってくる(野球初心者すぎてルールとかわからんけど)。読切時代からの因縁である綾瀬川vs大和の場面は、"普通"の漫画であれば大和が打つ展開になっているはずだが、予想を裏切り牽制ENDの展開に。近年、"ストーリー"というものが飽和しているため"突拍子もない展開"に頼る作品が増えているが、この作品の裏切りはあくまで積み上げてきた文脈に則った脱線であるため、読んでいて気持ちがいい。
欲求と障害の設計
<例①>「負けても楽しいと思いたい」という欲求→「強いチームでは無理」という障害→何やかんやあり(雛桃吾の暗躍)「この人たちってオレの人格どうでもいいんだ」という思考に至る。
<例②>「真夜さんが好き、勝たせたい」という欲求→「奈津緒を負かさなければならない」という障害→負かす責任を背負う覚悟を決める。
いや〜綾瀬川の欲求って基本チームのメンバーしゅきしゅき♡だからね。あだフェ入団後、練馬戦直後こそ明るい空気だったものの、嬉野先輩が同期の中で浮くようになったり、仁見が辞めてしまったり、少しずつ軋轢が入り込んでくる。
叶えられなかった例①の欲求については、ファミレスでバンビーズ監督との会話するシーンを入れることで「負けても楽しいと思ってた」と過去の自分に蓋をするという区切りを書いてくれていて、宙ぶらりんにしていない丁寧な描写がラブ。
例②の覚悟を決めるシーンは、階段を登り決別する描写→日常の何気ない風景の中に紛れ込ませる不穏な描写で書かれている。最新話でも十字架を背負うという描写があったが、こうした吹き出し・表情・コマ構図等を用いた比喩の表現力が高い。
また、「人格どうでもいい」という対比も上手い。大和もまた「綾瀬川の人格なんてどうでもいい」と口にしたが、バンビーズ監督たちとは向いている視線の先が"綾瀬川本人か"なのか"野球そのもの"なのかという違いがある。真夜さんも「こいつなんで普通にしてられんだ」って言ってたし、奈津緒も「みんなが綾瀬川を見てるっていうか」って言ってたし、そんな綾瀬川にとって大和がどれだけ有難い存在だったか……。
因果の連鎖
上述で挙げた例がそのまま該当していて、一つ一つの言動・結果が独立したエピソードではなく、必ず次の展開に意味を持って繋がっている。
4位 Dr.STONE
世界観
突然石にされて3000年ごの世界で目覚め、科学の力で世界を救う。発想の柔軟さ・独自性がすごい。何食ったらこんなの思いつくん?少年漫画のジャンルで未開拓だった"科学漫画"(少なくとも私は科学がテーマの漫画を知らない)に、最近流行りの"なろう系"の要素が組み合わさっていて、新鮮さ・キャッチーさの両面からバズりが確約される世界観。
ルール体系の一貫性
・キャラクターごとの能力制約の明確化
・復活液の設定
「千空=科学に関する知識はチートだが体力がない」のように、各キャラに「できること/できないこと」が明確に割り振られている。これによって、誰か一人が万能ではなく、複数人の力を組み合わせないと物事が進まないという構造ができ、"シゴデキ"(それぞれが自分の役割で最大限に活躍する場面)が活きる。アイシールド21でもそうだったけど、理一郎先生はこういう多様性を主題として伝えたいんだなって思った。
また、いわゆるマクガフィンとも言っても良い「復活液」の設定も上手い。①量産できないことからvs司で千空側にも勝ち筋を与える、②その資源源を一回物理的に破壊させることで、手当たり次第有能な人を復活すればいいじゃん!という抜け道をなくす、③製法を知っているのが千空サイドだけという交渉材料、という複数の機能を同時に果たす一つの装置として設計されている。
善悪設計
ドクストって冒険譚(石化光線の謎を解く旅)としての性格が強い。司、氷月、イバラ、ゼノが各章の中ボスとして配置されつつ、ラスボスであるホワイマンに対しても別に"悪を懲らしめている"わけではないから単純な善悪の説明が難しい。
問いの配置
「なぜ石化が起きたのか」というマクロ的な謎を軸にしつつ、「極秘ミッションとは何か」「石神村とは何か」「ゲン・羽京は何を考えているのか?(ミスリード)」というミクロ的な謎を随所に挟むことで、好奇心を持続させている。
欲求と障害の設計
千空の欲求は「70億人を科学の力で救う」という一つの大きな軸で一貫していて、章ごとに異なる障害が降りかかるというシンプルな構造になっている。欲求が単純明快だからこそ読みやすく、障害が章を追うごとに大きくなることでクライマックスへの盛り上がりが作られている。
このシンプルな「vs〇〇!→そのためには〇〇だ!→〇〇を作る!」という構造が、作品全体のテンション感を保ち、推進力として機能している。読者である我々にとって「〇〇を作る」の部分は「石化後の世界でそれが可能なの?!」という驚きをもたらしてくれるが、その驚きを作品内のキャラクターの反応としても表現するために、序盤でゲンが千空サイドに配置されている。本当に設計が上手い。
因果の連鎖
"因"と"果"の話ではないが、例えば「コーラ」という小道具が場面をまたがり、いくつもの演出を表現する役割を担っている。
・「コーラ」という現代人にしかわからない単語で登場するゲン(演出が粋)。
・その違和感を即座に拾えるコハクと、臨戦態勢に入る金狼という能力の高さ。
・ゲンが千空側に寝返る際の建前(本当は千空自身に惹かれていた)。
・ゲンが石神村に戻ってきた際に約束通り渡されるコーラ(仲間として認められる比喩表現)。
3位 SLAM DUNK
世界観
喧嘩三昧だった桜木花道が真のバスケットマンになるまでの成長を描く、シンプルでわかりやすいテーマであるため大衆への訴求力が高い。
シンプルな骨組みの上に、セリフやキャラクターの密度濃い作り込みが乗っているため、誇張なしに全巻泣きながら読むことになる。
・登場人物全員がバスケを真剣に愛している
・行間を読まなければならない描写や表現が多い
という2点がストーリーの質を高め、"少年向け"という枠を飛び越え屈指の名作として名を残している。
ルール体系の一貫性
スポーツ漫画だから特にない。
善悪設計
山王戦で「ワルモノ見参」と言ってるように、どっちかっていうとアンチヒーローものに近い。隠れてファウルはするし、相手校を煽るし、道徳的に褒められた行為ではない部分を持つ問題児軍団が最高の仲間に出会うことで"友情・努力・勝利"という少年ジャンプの根幹理念を踏襲している。
問いの配置
スポーツ漫画のため、謎解き的な問いは少ないが、後述の「障害の設計」により、"どういう試合展開になるの?!"というワクワク感を生み出している。
欲求と障害の設計
各試合のドラマ性がもう本当にスポーツ漫画の金字塔というか教科書。
・入部:欲求が"ハルコさん"から"バスケ"に変化する↔︎基礎練という障害
・練習試合:「センドーはオレが倒す」↔︎仙道という壁
・部員集め:「安西先生バスケがしたいです」↔︎鉄男たちの襲撃
・翔陽:「メガネてめーもいずれオレが倒す」↔︎ファウル
・海南:「じいがオレが倒す」↔︎知将により剥がれるメッキ、大黒柱の不在
・陵南:因縁校との再戦↔︎安西先生不在
・豊玉:ガラ悪い格上↔︎むしろ豊玉側に監督問題という障害がある
・山王:「ヤマオーはオレが倒す」
プラスで、スタメン全員それぞれの課題や葛藤が描かれていて群像劇としての厚みが増している。
因果の連鎖
「リバウンドを制す」「代わりはお前だ」「大好きです、今度は嘘じゃないないっす」等の同じ言葉・状況が、時間を経て違う意味を持って再現させるという様式美が上手く、成長の証明として機能している。
2位 ワールドトリガー
世界観
異世界に連れて行かれた仲間を取り戻すために、トリオンというエネルギーを用いて修行(?)する話。
※補足
いわゆるこっちの世界(="ミデン")には、異世界(="ネイバー")からの侵略を防ぐことを目的とした防衛機関(="ボーダー")が存在する。
ボーダー隊員はトリオンを用いた武器"トリガー"で戦う。
主人公たちはボーダーに属し、ネイバー渡航の選抜メンバーに選ばれるため、他の隊員たちと競いながら成長していく最中にある物語。
なんかワートリつまんないって人(緊張感がないとか、部活だとか)、バウンダリーが曖昧なんだと思う。フィクションのSFなんだし、そういう世界観なんだなって思って読めないのかな。
ルール体系の一貫性
・画一化されたトリガー構成というシステム
・戦闘距離によって分類されるポジション
という2つの仕組み(=ルール縛り)の活かし方で天才的な面白さを生み出している。
やっぱりバトル漫画ってルールがあった方が格段に面白い。例えば東京喰種は赫子の赫子のメリデメと相性とか。BLEACHだと「卍解」と言う共通の必殺技があるとか。縛りなんてあればあるほどいいんだから。
ワートリは十把一絡げの能力系バトル漫画と違い、使える能力や武器の種類が全員同じというゴリゴリの縛りが存在する。だからこそ同じ武器に対してどう攻略していくか、限られた武器の中でどう成長する必要があるか、等の"戦略"や"工夫"が緻密に描かれていて、面白い。
上述の通り、この世界では"トリガー"という武器を用いているが、トリガーの武器の精度は個々のトリオン能力に起因する。トリオン能力=身体能力のようなもので、身体能力が高い人が速く走れるように、トリオン能力が高い人は威力の高い弾トリガーを撃てる。要は、トリオン能力とはリソースの上限であり、これによって"個人の限界"という制約がまず設けられる。
そして、ボーダーの戦闘隊員は戦闘距離により「アタッカー」「ガンナー」「スナイパー」に分類され、それぞれのポジションにより以下トリガーを用いる。
・アタッカー
┗弧月:剣型、攻守バランスよく総合力ではトップの王道トリガー
┗スコーピオン:小型ブレード
┗レイガスト:盾モードありの耐久力が高いトリガー
・ガンナー
┗銃型トリガーを用いて、4種類の弾トリガーを使い分ける
・スナイパー
┗イーグレット:万能タイプ
┗ライトニング:弾速が速い
┗アイビス:威力重視
プラスで、人によってはオプションを付属させたり、SE能力やシューターというポジションもあったりするが説明が長くなるため割愛。
面白いのは、作中でも紹介されていた"技に歴史あり"の話。
・弧月を使う太刀川さんに勝てないから迅さんがエンジニアに相談してスコピを開発
・銃型トリガーを両手で撃つ"Wショットガン"スタイルを諏訪さんが編み出す
→弓場さんがそれを参考に、アタッカーに有利を取るスタイルを考案(旋空弧月が届かない間合い)
→弓場さん戦法に対抗して生まれたのが"生駒旋空"(才能にも拠る)
・二宮さんの緩急攻撃スタイルを弓場さんの早撃ちテクで真似する里見さん
このように主人公以外の先人キャラたちも、限られた環境でどうすれば勝てるのかを常に考えながら成長、発展している。自分がNT型だからかもしれないが、こういう物事の仕組み・理屈・戦略性な連鎖の部分に面白さを見出している。
善悪設計
大枠はミデンvsネイバーという二元論である。
が、主人公である遊真はネイバーからやってきた人間だし、ネイバー全員が悪いわけではないと冒頭の三輪隊員も気づいて揺れていた。
ワートリは細かいところでも政治描写を見せてくれるから面白い。
・ボーダー内(城戸派、忍田派、玉狛派)
・アフトクラトル内(王家のゴタゴタ、隷属国)
・ミデン内(世間vsボーダーになった際の根付さんの根回し等)
さらに、11巻から23巻にわたるB級ランク戦では、主人公チームと他のB級チームという構図が続くが、他チームを単なる主人公の敵として描くことをせず、各チームの葛藤やメンバー一人ひとりの人間性まで丁寧に描写している。B級の中位から上位だけで14チームも存在するにもかかわらず、この描き分けができているのがすごい。
問いの配置
雨取麟児はなぜネイバーに行ったのか、迅の予知による情報の小出し、レプリカに会えるか、遊真の肉体はどうなるのか、模擬戦の結果、みたいに、ワートリは小出しの問いじゃなくて割と大筋のものが多いかもしれない。
また、よく「ワートリは強さがインフレしない」と言われるが、それ自体も一種の「問い」として機能していると思う。
例えば東さん。
B級ランク戦で初めて明かされる"かつてA級1位部隊を率いた「最初のスナイパー」"という情報を踏まえて読み返すと、これまでの活躍にすべて納得がいく。
入隊式:おそらく名前すら出ていない→ちゃんと運営にも携わっている
大規模侵攻編(初期):新型トリオン兵になかなか手を出さない慎重なモブのおっさん→敵の強さを見極め小荒井をベイルアウトさせる機転
大規模侵攻編(vsランバネイン):良い指揮官っぽい?→良い指揮官すぎる
B級ランク戦(解説席):東さんが解説するんだ〜→これは絶対聞くべきなやつ!
欲求と障害の設計
大規模侵攻編は「基地にゴールしたい」という欲求に、様々な障害が降りかかる。ランク戦は、その都度浮き彫りになる課題を乗り越えていく構造。閉鎖試験編ではジャクソンが輝く。
因果の連鎖
暗躍が趣味の迅さんにガロプラの腕輪もらったサブプロットは、腕輪がメインプロットの鼓舞につながるところとか、いいね。
これが上手いのってアズカバンの囚人なんだよね。たくさんの授業を受けてるハーマイオニー・保護者からサインをもらえないハリー・バックビーク、たくさんのサブコンテクストが綺麗にメインプロットに収束されていく感じ。
1位 HUNTER×HUNTER
世界観
【ハンター試験編】
ハンターというこの世で最も儲かり気高い職業がある世界で、少年ゴンがハンター試験に挑む話。
ゴンが最初に出会う仲間はクラピカとレオリオ。そのあと相棒でもあるキルアが登場。幽遊白書から踏襲される4人組構成だ(主人公・オタクが好きそうな子・美形・漢気)。キルアが"ゾルディック家"という暗殺一家っていうのがまた良い。ゾルディックだよゾルディック、声に出したい日本語すぎる。
ハンター試験会場でヒソカとハンゾーを出したのも強い。狂気ピエロと己以外誰も信用していない忍者とか日本人なら誰でも好きやろ。ここで上手いのは、トンパの存在。彼が受験者たちの経歴や特徴を勝手に喋ってくれることで、増え続けるキャラクターを、読者に不自然な説明なく自然に紹介してくれる。
【天空闘技場編】
ハンター試験に合格したゴンは、キルアの家庭事情のゴタゴタがありつつも天空闘技場に挑戦する。ちょっとバトル漫画っぽくなる。ここでようやく念という概念が登場するが、この非日常的なフィクション設定を「水見式」という日常的な判定方法に落とし込んだ発想は天才的。みんな一度はやったっしょ水見式。
かの有名な「両方の性質を併せ持つ」もここで初出しですね。"なんでもアリ"になってしまいがちな念だが、しっかり特性によるメリデメを活用できているから"ご都合主義"にならない。
【ヨークシン編】
クラピカの仇である"クモ"が登場し、主人公たちはオークションに参加する。
ここら辺からHUNTER×HUNTERらしさが出てくる。
・ジャンルとしては能力バトルものに分類されるかもしれないが、結局クラピカはパクノダと"交渉"しかしてないし、どちらかというと頭脳バトル漫画なのかもしれない。
・"密室遊魚"や"レクイエム"のような、"aesthetic"な画。冨樫はストーリーも上手いけど絵まで上手いから本当に神。で、単に画力があるってだけじゃなくて、映画的なシーンの切り取り(演出)も上手い。"陰獣"とかもあれめちゃくちゃかっこいいやろ。
・"幻影旅団"の存在。最強で自由な集団、魅力的すぎる。
・付随しクロロの存在。ダウナー系×オールバック×十字架モチーフ×ファー×おそらくレザーの黒ロングコート×片手に本。厨二コンプリート?
【GI編】
いわゆる修行編。ただの修行ではなく、ゲーム要素を絡めているため、唯一無二の読み味になっている。
ゴンキルの名シーン「お前にあえて本当によかった」とか、ヒソカの有名な吹き出し◯起とかもここで出てくる。画力や演出力については上記で触れたが、コマ割りのような漫画ならではの表現力まで漫画界の頂点に立てる巧さだから、本当に神の漫画なんだと思う。
【キメラアント編】
キメラアントという優位生物が"敵"として現れる話。これだけで一本の漫画が成立するレベルの内容密度なのに、HUNTER×HUNTERではいくつもの編のうちの一つに過ぎない……。恐ろしい。
キメラアント編は結構王道。でも少年誌っぽくない。いわば「エルフェンリートや寄生獣のような哲学的テーマを持つストーリー」と「スラムダンクやガッシュベルのような熱い王道ストーリー」の両方の性質を併せ持つ。
【王位継承編】
アルカ編・選挙編を経て、王位継承編に繋がる。登場人物が多すぎる群像劇で読み応えがある。クラピカの煽りスキルも見どころ。
【結論】
小中学生の多感な時期にHUNTER×HUNTERに出会うと予後が悪い。厨二にウケる要素が多すぎる。「おそろしく速い手刀」「クセになってんだ音殺して歩くの」「沈黙!それが正しい答えなんだ」といったネットミームの多さも、それを裏付けている。
ルール体系の一貫性
みんな大好き念能力。
強化系・変化系・操作系・具現化系・特質系・放出系という6系統に分類され、「誓約と制約」(自らの能力に制限を科すほど、その能力の威力・効果が増幅される)という前提がある。
この前提(とヒソカの性格診断)があるからこそ、読者は初見の能力者が出てきても、「この人はおそらく特質系だろう」「この誓約は重すぎるから、相当な威力があるはずだ」というように、提示された情報から能力の強さ・弱点をある程度推理できる。念能力バトルは、単なる「未知の力のぶつかり合い」ではなく、既知のルールの上で行われる知的な攻防として機能している。
さらに「誓約と制約」によって、能力の発動条件・効果範囲が念能力者ごとに厳密に定義されるため、ルールの縛りを軸にした深掘りがさらに展開できる。
またGI編と王位継承編では、編そのものの構造自体がゲームのような形式を持っているため、好きな人にはたまらない。
善悪設計
作中でゼパイルさんも言っていた通り主人公であるゴンは善悪に頓着ないんだよね。基準が全部自分。
そんなゴンの悪側の側面を描いたキメラアント編って本当に歴史に残る名作だと思うよ。全登場人物の心情の変化やそれに伴う言動の描写が何一つ不自然でなく、心にスッと入ってくる。全登場人物が「愛」「責任」「信念」を持っているから。本当に泣ける。
問いの配置
「ゴンの母親とは」「暗黒大陸とは」「ジャイロとは何者か」といった大きなクリフハンガーがある一方で、細かい伏線も貼られている。例えばボノレノフが変装していたヒソカは絵文字がないとかね。ゾルディック家の写真を入れるとか。
上述の通り複雑なルールと、複雑な問い(伏線)を抱えた作品なのに、大衆に面白いと評価されている(=うわべだけ読んでも面白いと思える)ストーリーになっていることが本当にすごいことだよ。
欲求と障害の設計
ゴンの「父親を追いかけたい」という欲求は、いわば父殺しの通過儀礼として受け取れる。そして実際にその目的が果たされてしまうと、今度は第二の主人公と言えるクラピカの「幻影旅団を殺し、緋の眼を取り戻す」という欲求の物語が始まっていく。
因果の連鎖
長編漫画には「〇〇編」という単位があり、例えばONE PIECEでも「アラバスタ編→空島編→ウォーターセブン編」というように続いていく。HUNTER×HUNTERは、この編と編の連鎖のさせ方が非常に上手い。ぶつ切りにならない。
