KPOPボーイズグループの歴史を振り返る

 

 

【第一世代】「アイドル」のプロトタイプ

韓国初ダンスグループの誕生:ソバンチャ

現在のアイドルの原型として知られているのが1987年にDSPメディアからデビューしたソバンチャです。日本でカバーされた「オジャパメン」の原曲を歌っているグループですね。NCTのファンにとってはジェノ、ヘチャン、チソンがルーキーズ時代に披露していた「cow room car」もお馴染みかと思います。ソバンチャは韓国で初めてデビューした歌って踊るグループ歌手であり、ソバンチャの成功により、日本で当時人気だった少年隊や光GENJIのような「アイドル」が韓国でも流行すると踏んだ各々の企画社がアイドルの育成に名乗り出たわけです。

大衆音楽の変化:ヒョンジニョンクァワワ、ソテジワアイドゥル

ソバンチャがヒットした頃のSMエンターテインメントのイスマン氏「こないだ来韓してたNEW EDITIONのようなグループを作りたいなぁ。。NEW EDITION出身のボビーブラウンを参考にボーカル(メイン)+2人(バックダンサー)という構成でアイドルをデビューさせるぞぉ!」→イスマンは1990年にヒョンジニョンクァワワというグループをデビューさせました。ボビーブラウンに倣いヒョンジニョン(メイン)+ワワ(バックダンサー)というメンバー構成、歌う曲はニュージャックスウィング。2名はバックダンサーという扱いではありますが、複数名で構成されたアイドルグループが歌謡曲ではなくダンス音楽を歌って踊るという形が普及するきっかけとなりました。
そしてヒョンジニョンとほぼ同時期、ソテジワアイドゥルがデビューし爆発的な人気を得ていました。1992年のことです。当時バラード音楽が主流で韓国語でラップは不可能だとされていたのにも関わらず、踊ってラップをして韓国全土にむちゃくちゃ影響を与えたところが「韓国歌謡界の歴史はソテジワアイドゥルが登場する以前と以後で分けられる」と言われる所以なんですねぇ。
続けてヒップホップデュオのDEUX、ダンスチームのTurboがヒットし歌って踊ってラップをするアイドルというスタイルが定着していったのです。
謡曲を歌っていたソバンチャの頃の韓国歌謡界に、ヒップホップやダンス音楽というジャンルの風を吹かせ現在の音楽シーンを作ったのがヒョンジニョンクァワワやソテジワアイドゥルでした。

「アイドル」が定義づけられた第一世代:H.O.T、Sechs Kies

ソバンチャやソテジワアイドゥルの人気を横目で見ていたSMエンターテインメントのイスマン氏「ジャニーズのようなアイドルは韓国でもビジネスになるのかなぁ。顔が可愛くてキャラクター的にも魅力のある子たちをバランスよく集めてユヨンジンの曲を歌わせてみよう。」→イスマンは1996年にH.O.T.(以下えちょ)をデビューさせました。彼らが一世を風靡したことによりいわゆる第一世代の幕が開けたわけです。なぜソバンチャでもなくソテジワアイドゥルでもなくえちょのデビュー以降が第一世代と呼ばれるかというと、えちょが韓国初の「アイドル」としての特徴を備えたグループだったからです。
以下、えちょが初めて韓国にもたらしたアイドルならではの制度たち(?)です…。

  • ビジュアルに重きを置いている(トニーオッパサランへ)
  • メンバー構成(メインボーカルやキャラクター性)
  • 公式カラーの風船を使った応援*1
  • 曲中にファンが叫ぶ応援方法
  • 挨拶するときの決まり文句
  • リップシンクのジャンル化
  • カムバックごとに変わる音楽ジャンル
  • カムバックごとに変わるコンセプト
  • 作詞作曲や振り付けなど自己プロデュースも行う
  • 中国で人気を博し「韓流」という言葉を作る

SMPと呼ばれる社会批判的な歌詞と強烈なサウンドのパフォーマンスに関してはSMの子たちに受け継がれているだけでなくTSの子たち(B.A.PとTRCNG)やBTSに影響を与えていますね。

えちょという社会現象を受け、ソバンチャを誕生させたDSPメディアもSMに対抗する形でSechs Kies(以下ジェッキー)を送り出します。ここからSMvsDSPの対立が生まれるのです…。*2ジェッキーは何よりビジュアルが良いです。あとファンをファンクラブ名で呼ぶきっかけはジェッキーだったのではないかなと思います。(ちなみにわたしの推しカンソンフン

様々なタイプのアイドルがデビュー:NRG、神話、1TYM、god、Click-B

1997年にデビューしたNGRというグループもジャニーズを参考にしていて美少年+ユーロビート+アクロバットのコンセプトで人気でした。アクロバットコンセプトは2PM、GOT7などに受け継がれてますね…2PMは美少年とは程遠い肉体美グループですが。中国ではえちょを凌ぐほど人気だったそうです。(ちなみに私の推しはイソンジンとキムファンソン)

当時3〜5年で解体されていたグループのなかで初めて5年目の契約時にグループ全員で事務所を出てグループ活動を続けたのが1998年デビューの神話です。メンバーエリックがドラマに出て*3人気が出てたので当時の所属事務所であったSMエンターテインメントがエリックに破格で再契約を提示したけど断ったという、お金より義理を選んだエピソードが有名ですね。今でも寿命が短い韓国アイドル界なので長寿ドルの神話はアイドルたちの希望でもあります。ちなみにダンス練習動画を初めて公開したのも神話です。(ちなみにわたしの推しはチョンジン)

ソテジワアイドゥル出身のヤンヒョンソクが初めて企画したグループが1998年デビューの1TYMです。ソテジワアイドゥルの血を受け継ぐ元祖ヒップホップドル、自作ドルですね。そしてその血はB1A4やBlock B、BTSSEVENTEEN、YGの子たちなどに引き継がれるわけですね…。

ダンスミュージックではなく心に響く歌詞のバラードと親しみやすいキャラクターでアイドル的人気というよりは国民的人気を 得ていた1999年デビューのgodです。ちなみにプロデューサーはパクジニョンです。(ちなみに私の推しはソヨンオッパ)

また現在FTILAND、CNBLUE、N.Flying、DAY6、ONEWEなどたくさんのバンド系アイドルがいますが、初めてバンドの形式をとったアイドルは1999年デビューのClick-B(以下クリビ)です。DSPが神話に対抗する形でデビューさせたクリビですが、ジェッキー同様非常にビジュアルが良く、個人的には全KPOPアイドルグループのなかで一番顔面偏差値が高いグループだと思ってます。えちょのマネージャー出身で数多くの第一世代アイドルをスカウトしてきたキムスヒョンさん*4という方が道でスカウトした子達が4人もいるグループなので顔面偏差値が高いのも納得。↓該当の4人の写真。
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(ちなみにわたしの推しはキムサンヒョク)

 

【第二世代】グローバル化の下準備

SMの企業努力の結晶とアイドルビジネス化システムの普及:東方神起

SMは2000年代初頭から誰よりも早くアイドルをビジネス化するシステムを作り上げているんですよね。以下SMが初めて導入した制度一覧。

  • 練習生システム
  • A&Rシステム(コンペ)
  • ビジュアルディレクティングチーム
  • パフォーマンスディレクティングチーム
  • グローバル戦略(YouTubeの活用や「現地化」)
  • 商標登録

2003年にデビューした東方神起はまさに上記の制度が作り上げた怪物。
メンバージュンスはダンスでキャスティングされたけど練習生システムにより歌のトレーニングを受けメインボーカルとしてデビューしたし、
A&Rシステム、ビジュアルディレクティング、パフォーマンスディレクティングを受けてた結果哲学3部作と呼ばれるコンセプトでカムバックしたし、
2004年に東方神起の商標権を申請しているし、
中国進出のためグループ名を漢字にして中国語の歌詞でRising Sunを歌ったし、
日本進出のため日本で生活し言語を学習したし…。

2000年代初頭JYPのピ、YGのSE7ENなどのソロアイドルやバラード歌手が音楽トレンドの主流でありながらも、2000年代後半東方神起の成功によりSMのビジネスシステムが他の芸能事務所でも取り入れられ、アイドルグループ戦国時代となったのです。

特筆すべきはYGとJYPの台頭ですかね。DSPイホヨンの逝去と、BIGBANG、2PMの人気からSMvsDSPというアイドル芸能事務所の勢力図が崩れ、SM、YG、JYPが三大企画社と呼ばれるようになりました。

中小芸能事務所からもたくさんのアイドルグループがデビューしました。CUBEという芸能事務所は、当時BIGBANG、2PM2AMがサバイバル番組を通してデビューしていたんですけど、そこでデビューを逃した練習生など、すでにある程度有名な練習生を集めてBEASTとしてデビューさせました。
他にも神話のエンディが設立した事務所からTEENTOP、ピが設立した事務所からMBLAQ、U-KISSやZE:A、INFINITE、2011年デビューの3B(BOYFRIEND、B1A4、Block Bのことです。わたしが勝手にそう呼んでいる)などのグループが人気でしたね…。

ファッショントレンドと総合芸術:BIGBANG、SHINee

2006年にデビューしたBIGBANGは音楽性だけでなく、ビジュアルの面で多大な影響を与えました。ビビットカラーやアクセサリーを用いたカジュアルストリートファッション、アイラインなどの派手なメイク。顔をよく見せるために男性アイドルがメイクをするという常識を作ったのがBIGBANGです。

ファショントレンドを作ったのがBIGBANGだとしたら、KPOPを写真、映像、ロゴ、スタイリングなどアート的なクオリティを高め総合芸術として仕立て上げたのがSHINeeです。2008年にデビューしたSHINeeはSMのミンヒジンアートディレクターの恩恵を一番最初に受けたボーイズグループであり、ミンヒジンの手腕が確かめられます。

このようにBIGBANGとSHINeeの存在により、韓国アイドル界が音楽的なクオリティだけでなく視覚的な美しさも求めるようになったことがグローバル化の下準備その①であると考えられます。

外国人作曲家、外国人振付師の登用:SHINee

今では当たり前のように登用される外国人作曲家および外国人振付師。
(おそらく)初めて外国人作曲家と外国人振付師を登用したタイトル曲がSHINeeのデビュー曲であるヌナノムイェッポです。*5
SMは同年SHINeeだけでなく東方神起のMiroticにも外国人作曲家と外国人振付師を起用し、Miroticは韓国内でも大大大ヒットしました。

ワールドワイドで活躍するクリエーターの起用はグローバル化の下準備その②といったところですかね。

群舞としてのダンス:Super Junior、INFINITE

Super Juniorデビュー前までは個々人で同じ振りを踊るようなダンスでしたが、Super Junior以降は群舞としてのダンス、全体の見え方を意識した振り付けが主流になったように思います。ジャニーズJrのようにメンバー変動を夢見ているイスマンにより2005年にデビューしたSuper Juniorはもともとローテーションシステムのグループとなる予定でした。なので人数もデビュー時は12人という大人数です。複雑な導線や全体で見たときに綺麗に見えるフォーメーションは大人数だったからこそ試行できたのではないでしょうか。

2010年デビューのINFINITEは「カル群舞」という言葉を生み出したグループですね。カル群舞とはキレが良く揃って見えるダンスのことです。INFINITEは練習室の床に汗のシミができるほどダンスの練習したエピソードがあるように、ダンスに力を入れて初めてダンスの面が一般的に評価されたグルーブです。INFINITEの存在により複雑な振り付けのダンスを揃って踊るということが重要視されるようになったのだと思います。

実際第三世代以降、BTOBやクナクンのようにボーカルを重視するグループもいますがVIXX、BTSMONSTA X、ACEなどダンスをメインにするグループが増えたのではないでしょうか。VIXXやMONSTA Xはダンスに加え全員の体格が良いので全体で見たときに見栄えがいい感じでもあります。

歌と違い画面上でも楽しみやすく素人の老若男女にとってクオリティの差がわかりやすいダンスに重きを置くようになったことがグローバル化の下準備その③といったところです。

「新大久保ドル」と外国人メンバー:2PM

BoA東方神起の日本での成功により日本に進出するグループが増え新大久保ドルという言葉も誕生します。超新星や大国男児、MYNAMEなど日本語ペラペラな韓国人アイドルが出てきます。

一方韓国語を話し韓国内で活動する外国人アイドルも出現します。2008年にデビューした2PMにはパクジェボム、ニックンという韓国国籍以外のメンバーがいました。「韓国でアイドルとして活躍する外国人」はKPOPアイドル自体が国内という枠に縛られず世界的に開かれた存在であることの証明なのではないかと思います。
Super Juniorにもハンギョンという外国人メンバーがいましたがそれはイスマンの中国進出の夢(いわゆる「現地化」)を見据えたものであるので少し存在意義が違ってくるのかな。どちらかというと新大久保ドルの概念。

第一世代、第二世代のアイドルにも留学組帰国組のメンバーはいましたが世界共通言語である英語がペラペラなメンバーはいませんでした。今ではGOT7、MONSTA XBTSSEVENTEENNCT、Stray Kidsなど英語が話せるメンバーがいることが売れることの必須条件のようになっています。中国語が話せるメンバーがいるグループも珍しくありませんね。タイ人や日本人もチラチラ見かけます。

日本の芸能事務所であるアミューズがデビューさせたCROSS GENEや、中国の芸能事務所であるYUEHWAがデビューさせたUNIQなど、海外の芸能事務所が韓国でアイドルをデビューさせる時代にもなりました。

2PMメンバーのテギョンも英語を話せますし、2PMの存在がグローバル化の下準備その④と言えますかね。

 

【第三世代】KPOPアイドルはSNS時代と相性が良かった

コンセプトドルの誕生:EXO

黄金の2012年デビュー組*6であるEXO。EXOは異世界からやって来た超能力を持っているメンバーという設定でビューし、グループ自体にストーリー性を持っています。
デビューティーザーやMV、コンサートVCRなどの公式映像全てに連続したストーリー性があり、超能力設定に忠実で伏線が張り巡らされた映像はまるでクリストファーノーランの映画かと思うほど作り込まれています。
グループ自体にコンセプトとストーリー性を持たせ、ファンが「MV考察」するという文化はツイッターYouTubeが普及しているこの時代だからこそできたものだと思います。

ちなみに同年にデビューしたB.A.Pもマトキ星からやってきてファンの歓声が栄養源となる宇宙人コンセプトでしたね…。

あとVIXXはMVのストーリー性というよりも、タチルジュンビガデイッソという曲以降ゾンビ系(?)のメイクやコレオ、MV内容という奇抜なコンセプトで数曲カムバックしていることからコンセプトドルと呼ばれています。

BTSが欧米で売れた理由

理由づけなんてナンセンスですがあえて考えてみると。

  • ソテジワアイドゥルから「ヒップホップ音楽」を引き継ぐ
  • えちょからは「自作系社会批判アイドル」という要素を引き継ぐ
  • 上述のグローバル化の下準備①〜④+PSYカンナムスタイルのヒットによりKPOP自体の認知度が世界的に高まっていた
  • ダンスが上手なグループのため画面上でもパフォーマンスが映え今のYouTube時代とマッチしていた
  • EXOからはコンセプトMVを受け継ぎ欧米の2次元オタクたちに実在する2次元のキャラクターとしてウケた
  • 2012年デビュー組が激戦だったのに対し2013年デビュー組は全然いない
  • ナムジュンが英語を勉強していた
  • メンバー全員が若くしてデビューし韓国人のため意思疎通がスムーズだった

上記の8つの要因が思い浮かびますね。あとは楽曲的な要因としてブレイク中に洋楽層向けのムーンバートン楽曲出して英語圏新規増やせたりとか、、ね。

 

サバイバル番組、オーディション番組が流行っている

韓国は古来からオーディション番組系が大好きなのでKPOPSTARやSUPERSTARK、SMTMが人気だったし、BIGBANGや2PM2AM、VIXXやMONSTA Xなどはデビューをサバイバルオーディション形式で行っていますが、PRODUCE101(以下プデュ)という社会現象についても触れておきたいと思います。

プデュ、そしてプデュの波に乗ろうとしたTheUnit、MIX&MATCH出演グループはVICTON、NU'EST、HOTSHOT、UNIQ、TOPPDOGG、UP10TION、BIGSTAR、INFACT、TREI、MADTOWN、少年共和国、ACEなど。

PRODUCE101からはWANNAONE、MIX&MATCHはデビューが白紙となってしまいましたがTheUnitからはUNBがデビューし、PRODUCE101出演者もそれぞれJBJ、The Boyz、TEENTEEN、CIX、AB6IX、ONEUSとしてデビュー。

ここで言及しているのは3番組だけであるにも関わらずこんなにたくさんのグループが関係しています…。

しかも第二世代の時は中小事務所だった事務所たちが力をつけてきて俳優系のFantagioからASTRO、FNCからSF9、CUBEからPentagon、WMからONF、ウリムからGolden Child、ジェリーフィッシュからVERIVERY、BIGHITからTXTといったようにどんどん新しい子たちが出てきてますね。

この中に次の歴史を作るグループはあるのでしょうか。傾向的に次の覇権はすきじゅ…?

*1:公式カラーはH.O.T以前の歌手から存在しましたが、公式カラーの重要性を高めたのはH.O.Tだと言えます

*2:H.O.T.とSechs Kies、S.E.SとFin.K.L、神話とClick-B、東方神起SS501、少女時代とKARA。SMがデビューさせた翌年にSMのグループより1人多い人数構成でデビューさせていたことで有名。

*3:火の鳥というドラマで「焦げた匂いがしませんか…?僕の心が燃えているんです。」というセリフが有名。

*4:S.E.Sのユジン、神話のドンワン、UNのキムジョンフンなどを発掘した敏腕スカウトマン。

*5:S.E.Sのdreams come trueなど外国人作曲家の起用は以前からある。

*6:B.A.P、EXO、NU'EST、BTOB、VIXX、A-JAX、C-CLOWN、100%、BIGSTAR、TASTY。豪華ですね。